2013年10月8日 林 季一郎

初心者が標高6310mの山に挑戦

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おはようございます!

ついにこの日がやってきました。

標高6310m、この世で宇宙に一番近い場所を目指します。

孤独な雪山での想定外の事態に、果たしてどうなるんでしょうか!?

 

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■ 9月29日 午後8時

車内が薄暗くなり始めた。

先程から何度も腕時計に目をやっているのだけど

その度に、思ったより時間が経っていることにビビってる。

 

「やっべー、マジで寝なきゃ!!」

 

そして、ついに今度は…

午後8時を回っていた!

 

そう、出発に向けての準備を始める時間になってしまったのだ。

ついに一睡も出来ずに…

 

(※こうなった経緯⇒「挑戦当日に明かされる衝撃の事実」)

 

いや、寝ようとは思ったんだ。

4時半には、車内で横になっていたんだ…

 

それなのに…

 

外があまりに明るい。

横を走る車の音があまりにうるさい。

そして何より、目前に迫ってる挑戦に興奮して一切寝付けない。

 

で、ヤバいヤバいと思いながら

4時間が経過。

 

徹夜での出発となってしまったのが、今だ。

 

でも、少し頭が重いことを除けば、特に体調に問題は無さそう。

しかし、少しでも不安要素をなくしておきたい今、

まさか徹夜で6310mに挑戦することになるとは思わなかったなー(笑)

 

もうこうなったら仕方がない。

気持ちを切り替えて、今度は体を目覚めさせよう。

まずは、カップ麺で体を温める!

 

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そして、登山ルートの最終確認。

…。…。よし、頭の中ではもう3回くらい登頂してるわ。

 

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最後に、レンタルする登山用具を取りにガイド会社へ。

ちょうど、オーナーのジョンもやってきた。

今回の予定変更で、彼もわざわざ自宅から見送りに出てきてくれたのだ。

 

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そして、ここで今回お世話になるガイドのアルヘンドと初対面。

俺:「よろしく!」

アルヘンド:「あぁ、よろしくな。」

 

今回は俺とアルヘンドの二人だけでの登山。

ちなみに、アルヘンドは英語は全くできないので

片言のスペイン語で、何とか意思の疎通をとるしかなさそうだ。

 

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そして、行方不明だった隆も戻ってきたので

出発の記念写真を撮ってもらう。

(上の写真の左から、オーナーのジョン、ガイドのアルヘンド、俺)

 

時刻は午後9:30

さぁ、出発しよう。

 

ここまできたら楽観的に行こう。

「俺なら、出来る~!?」

 

デリカに乗り込む。

隣に座るのは、隆ではなくて、ガイドのアルヘンド。

そして、リオバンバの街を出た。

 

登山口までは、もう2日連続で登ってるから慣れたもの。

昨日も一昨日も夜9時頃にここを通ってるし

ここまではいつも通り。

 

そこで寝るんじゃなくて、そこから6310mを目指すこと以外は(笑)

 

ということで、いつもなら寝る時間なので

運転してる最中も眠くてしょうがない。

気になって隣のアルヘンドに聞いてみた。

 

俺:「アルヘンドは寝たの?」

アルヘンド:「いや、寝てない。なんせ急の変更だったから。」

 

やっぱり(笑)

 

そして、22:30、登山口(4300m)に到着。

予定では、こっから4900m地点までさらに車で行けることになってる。

 

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いつもはここで寝てたから、ここから先は初めて通るところ。

ゲートをくぐると、すぐにガタガタのダート道に入った。

 

それをジグザグに少しずつ登っていく。

真っ暗なのでよく分からないけど、この標高だ

明るいときなら、かなり見晴らしいがいいんだと思う。

 

そして、30分ほど登ったところで

突然、道が終わった…

 

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「危険!工事中!」の看板。

そこで道が封鎖されていた。

 

あー、これが山小屋が閉鎖された理由ね。

ところで、今は高さは??

 

そう思って、ガーミン(GPS)を見てみると…

 

4800m

 

俺:「あれっ!?でも、ジョンが4900mまでは特別に行けることになったって?」

 

そんなことお構いなしのアルヘンド。

俺が言葉なんて発してないと言わんばかりに

黙々と隣で準備をし始めた。

 

……….

 

……….

 

え、無視??

でも、さすがに100mの違いは大きいよ!

 

そう思って、もう一回確認する。

俺:「え、こっから登るの?だって4900mまで行かせてくれるって…」

 

 

アルヘンド:「ここがベースキャンプ(4800m)だ。ここから登る。」

 

 

 

うん。

あの話は無かったことになったのね(笑)

 

 

 

そうと決まれば俺も準備をせねば。

外に出ると、標高(4800m)の割には寒くない。

ダウン一枚でも、十分暖かいくらいだ。

 

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ふふふ、それでも前回のちょ~っとした経験から

とにかく、手が冷えたらマジでキツイってことは分かってる。

よって今回は…

 

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どうだ!!

手袋三枚重ね&日本の「ホッカイロ(貼るタイプ)」貼りまくり作戦。

 

ふむ。これで手は大丈夫なはず。

 

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慣れた手つきでどんどん準備を進めていくアルヘンド

 

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隆から借りたゴアテックスジャンパーを身につけて気分は最高潮の自分。

 

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チンボラソは落石がすさまじいらしい。こいつが命を守ってくれるヘルメット君。

そして、全ての準備が整ったところで

 

アルヘンド:「元気な今のうちに写真でも撮っとく?」

とニヤニヤしながら、勧めてきたので

 

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そして、俺らはデリカを後にした。

 

時刻は、深夜23:15、

月明かりすらない真っ暗闇の中に足を踏み入れる。

 

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少し水分を含んで柔らかくなった斜面をただ黙々と歩く。

周りを見回しても、何も見えない。本当に暗い。

 

自分のヘッドライトの灯りだけが頼りで

前を歩くアルヘンドの後ろに何とかついていく。

 

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初めは中々ペースがつかみづらい。

いきなり4800mに来てるんだから当たり前だ。

それでも前回の経験からか、比較的すぐに呼吸のリズムも慣れてきた。

 

「フゥ~~、スゥ~~、フゥ~~、スゥ~~」

 

まだ傾斜もそこまでキツくはない。

だいたい10°~20°といったくらいだろうか。

 

ただ、所々で大きな岩が道を遮っていて

そこを越えるために足を踏ん張らなきゃいけないのが辛い。

その一歩だけで、一気に呼吸が乱れてしまう。

 

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深夜11:45、5000mのハイキャンプに到着した。

尚、ここも現在修復中のため閉鎖されてる。

通常ならば、ここで一泊してここからスタートが普通らしい。

 

歩く始めてまだ30分。

体力はまだまだ大丈夫だが、とにかく眠い。

 

アルヘンド:「大丈夫か?」

俺:「うん。でも少し眠いかな。」

 

アルヘンド:「そうか。俺もめちゃくちゃ眠い。」

俺:「ははは…笑」

 

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ここでアルヘンドが、先程俺らが出発したデリカ(車)の辺りを指さした。

後方の暗闇の中に、小さいヘッドライトの明りが2つ見えた。

 

そう、他の登山者がいたのだ!

「あ、俺らだけじゃないんだ!」と少し安心した。

 

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10分ほど休憩して、再び登り始める。

 

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(↑ちなみにかなり頑張って写真撮ってますよー)

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暗すぎてフラッシュのライトが届かず、写真もろくに撮れない…

 

しかし、この辺りから一気に傾斜がキツくなってきた。

まぁ、事前に頭に叩き込んだ情報の通りなのだけど

それでも、この傾斜はなんなんだ…

 

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話によれば、傾斜30°くらいはあるというが…

 

「スゥ~ハァ~、スゥ~ハァ~」

 

それまで一歩で息を吸って、次の一歩で吐いてだったリズムが

一歩ごとに吸って吐いてのワンセットを繰り返さなきゃ体がついていかない。

 

正直、キツイ

 

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日付が変わった午前1:00

雪と土砂が混ざった、じゃりじゃりした斜面に出た。

 

ここで雪用のアイゼン(トゲトゲ)をブーツに装着する。

ここからは傾斜40°の急斜面で

アイゼンの先端部分のみを噛ませて這い上るらしい。(恐ろしい…)

 

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ザイル(命綱)の準備をしてくれるアルヘンド。

何もできない俺らは、ただ座って待つことしかできない。

(ごめんね、アルヘンド…)

 

そして、標高が高くなってきたせいか

座ってると体が一気に冷えてくるのが分かる。

寒いよー、これやばいよー!

 

俺:「ねぇ、アルヘンドは全然まだ余裕なの?」

アルヘンド:「まぁね。週に2,3回はここ登ってるからなー。」

 

なんじゃそれ(笑)

 

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20分ほどで準備完了。

少し休んだことで、気持ち体が軽くなった気がする♪

 

しかし、こっから地獄が始まった…

 

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今までにない急な斜面

凍って滑りやすくなった地面

もう両手も使って、なんとかよじ登るといった感じ。

 

そして、ここで気がついた。

 

これ、前回のワイナポトシと次元が違う…(汗)

 

少なくとも前回は、登山ルートというか他の人が通った足跡が残ってた。

ここにはそんなものは存在しない。

 

危ないと思ったら迂回する

危ないと思ったら斜面に溝を作ってから進む

そうして、全て自分たちの判断で一歩一歩進んでいく。

 

この時点で、後ろにいた2人の明りが消えていることに気がついた。

「撤退したようだな。」とポツリと言うアルヘンド。

 

さすがに、答える余裕もなかったので無言で登り続けたが

言いようのない寂しさを感じた。

 

「あぁ、今のこの山には俺ら二人だけかぁ」

 

この感覚。

たとえ車で世界一周していても

完全な孤独を感じることは滅多にない。

 

いくらアフリカのジャングルにいようと

南米の砂漠地帯を走っていようと

そこに道がある限り、人は住んでるものだ。

 

でも、今、この空間には自分ら以外誰もいない。

 

漆黒の闇の中で、ほぼ視界がない状況で

唯一見えるのは、はるか上にそびえるチンボラソの山影。

標高5000mだ、助けなんて呼びようもない。

 

「今、この空間にいるのは自分たちだけ」

 

でも、そんな時に感じる

誰にも見られていないというか、誰からも干渉されないというか

とにかく、自分以外は雲の下という感覚は、妙に居心地がいい。

 

 

午前2:15

ついに俺らは西稜のコル(頂上へ繋がる尾根)に出た。

 

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(↑尾根の様子)

 

この両側は斜面で、この先は頂上へと通じてる。

今、この左側の斜面からここに登ってきたんだ。

こう見ると、ホントに急だな…w

 

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ふぅ~っと一息つく。

さすがにかなり疲れてきた。

 

俺:「ここからあとどれくらいで頂上?」

アルヘンド:「ん~、あと4,5時間ってとこかな♪」

 

マ・ジ・カ…

 

よく考えてみよう。

前回のワイナポトシは、スタートから頂上まで5時間ジャストだった。

 

 

ここまで3時間くらい登ってきてだよ

さらに、4,5時間って!!!

 

 

はぁ、気が遠くなるなぁ~

なんか水も凍ってるし…↓

 

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でも、この時点で、事前に調べていた他の登山者情報と、自分の残りの体力を考えて

登頂は「できる」と思った。

 

この先のことも考えて先を急ごう。

そう思って、自分から立ち上がろうとして隣のアルヘンドを見ると…

 

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って、寝るなーーー!?

 

 

まぁ、気持ちはわかる。

ということで俺も少しの間目をつぶる。

 

そして、気を取り直して出発!

 

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スタスタ、スタスタ。

頂上が見えたことで、がぜんやる気が出てきた。

 

そこに…

 

DSCN5568

 

えぇええーーー!!!!

 

何この断崖絶壁!!!

 

マジで落ちたら死んじゃうよ~~涙

 

DSCN5570

 

仕方がないので、気合いで上る。

 

しかしこの辺りから、細い尾根の雪面状況が悪化してきた。

凍った雪は固くて、少しでも油断すると滑落しそうになる。

さらに少し吹雪き始めた。

 

アルヘンドが時計を確認する頻度が多くなった気もする。

 

DSCN5548

 

午前3:30、さらに状況は悪化。

 

固く凍った雪面の表層が、足で踏むと表面だけが剥がれて

命綱がなかったら一緒に滑り落ちそうになる。

傾斜も30~40°はある斜面で、これはマジで危険。

 

ここで初めて恐怖を感じた。

 

DSCN5547

 

ここにきてアルヘンドが、

「これ以上雪の状況が悪くなったら下山する。」と言い始めた。

 

え、嘘でしょ(笑)

と初めは冗談かと思っていた。

 

しかし…

 

午前3:45、ついにアルヘンドが下山を決定した。

アルヘンド:「残念だが、これ以上は危険すぎる。」

 

俺:「いやいやいや!せっかくここまで来たのに!あと少しだけでも!」

アルヘンド:「いや、駄目だ!」

 

俺:「なんでだよ!まだまだ行けるじゃないか!!」

 

“地球で一番高い所に登頂して、そこでメッセージ写真を撮る”

 

絶対に達成するつもりできていたし、

それが出来るとばかり思った矢先のことだけに

撤退を決めたアルヘンドに感情的に当ってしまった。

 

そんな俺に、アルヘンドが言った。

 

DSCN5561

 

 

アルヘンド:

「この調子なら登頂は出来るだろう。

でも、帰ってはこれないかもしれない。」

 

 

 

俺:「……。」

 

 

 

下山することにした。

頂上で撮るはずだった皆さんの写真もここで撮影。

 

DSCN5550

 

あまりの悔しさに目頭が熱くなった。

何とか笑顔を作るのが精一杯だ。

 

あぁ、こんな中途半端な結果で

応援してくれた人たちに何て報告すればいいんだ…

 

そんな時に隣にいたアルヘンドが

おもむろに胸ポケットから携帯を取り出して見せてきた。

 

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俺:「え、何これ??」

 

アルヘンド:「これが明るい時に見えるチンボラソだ。」

 

え、これで我慢しろってこと??笑

 

DSCN5558

 

さすがに笑ってしまったが、

とにかく、これでチンボラソ(6310m)への挑戦は終わった。

 

あとは、下山するだけだ。

まだ体力も十分残ってるし、戻るのは楽だろう♪

この時はそう思っていた。

 

しかし、まさかこっからが地獄の始まりとは…(つづく)

 

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